賽は投げられた!

わが輩は、還暦である。今日は、就職面接だ。

 

えっ? いきなりですか? とこれを読んでいるあなたはきっと驚かれているに違いない。ということが、わが輩にはわかる。うん、ものすごくわかる。だって、この話、今初めてするのだから…。

 

遡ること5日前。カミさんの仲の良い友人から2カ月以上も前に、ある職場で人を探しているのだが誰かいないだろうか、と話を持ちかけられていたらしい。そのときには、咄嗟に思い浮かぶ人はいなかったのだが、今となったら、「うちの旦那がいるじゃない!」と閃き、わが輩の名前で求人のメールフォールに必要事項を記入して応募したという次第。カミさんの名誉のために言っておくが、勝手にメールを送ったわけではなく、運転中の出来事だったゆえ、わが輩の口述筆記でわが輩の了解のもとに送った次第である。

 

その際、わが輩の電話番号とメールアドレスを記載していたにも関わらず、翌日になっても何も音沙汰がなかったので、電話をしてみなさいとカミさんに急かされた。ホームページの募集要項一覧にメールフォームまでありながら、何も連絡をしてこないということは… これまでの経験上、そんなことは皆無である。一般常識からしたら、連絡があった人のところへは飛んでいきたいくらいの勢いがあっておかしくないはずだ。それとも何かしらのトラブル真っ只中か。それだったら、メールを送ることすらできないはずだが、何の問題もなく送れたよう(にみえる)だった。

 

先方から連絡があるまで忍の一字でとにかく待つ。というメンタリティを持ち合わせていないので、電話するしか手段が思いつかない。いったいどんな会社なのか? 勇気を持ってダイヤルしてみる。総務部の年配女性と思しき人が電話を受け、担当者に繋いでくれる。これまた年配の男性が出られて、いきなり違う部署への応募であるか否かを問われる。そうか、この会社は、今、その部署の人材が不足しておるのだな、なるほど、そうか、だが、わが輩は、別の部署に用事があるのだ。ふふふ。

 

と、ひとりで不気味な雰囲気を醸していた(とはっきり断言できる)ところ、「では、近々ですと、祝日明けの水曜日、午後イチあたりは如何でしょう?」と尋ねられたので、「はい、それで結構です。何か持参するものはありますか?」とわが輩。「手書きの履歴書と職務経歴書をお持ちください」と担当者。「はい、かしこまりました。それでは、当日宜しくお願い申し上げます」と、いう見事な流れがあって面接の日を迎えることとなったのである。

 

これはもう必死になって仕事を探している年配のおじさんと、そんな崖っぷちのおじさんですら笑顔で面接しまっせ的な優しさいっぱいの会社をアピールする担当者。買い手市場の時期だったならばとうていこうはいかなかった。年齢を気取られた時点で、『地雷を踏んだら、さようなら』であったろう。そして、今回わが輩は、フリーで電話をかけてきた人とはまったく立場が違っている。その会社に勤めている人の紹介であるというのは、普通に考えたら最大のアピールポイントであろう。

 

カミさんの友人からは、岡山さん(仮名)の紹介だと電話口で言ってね。と念を押されていたので、その旨伝えたところ、すぐに面接OKとなった。わが輩は、その担当者に「岡山とどのようなご関係ですか?」と訊かれはしないか、内心ビクビクしていた。女性は、このようなことでビクビクするような脳と心臓を持っていないから羨ましいほどだ。男はみみっちいなぁ。

 

さらにビクビクがビクビクを呼び、そもそもその人自身、会社の中でどのような役職にあるのか、あるいは、どのように評価されている人なのか、初期情報がまったくないからビクビクが止まらないのである。ビクビクを抑えるために、もっとあれが、いや、これが、ノンノンそれが! と何が何やら、事件はいったいどこで起きているのか?

 

ともあれ、ガイウス・ユリウス・カエサルでなくとも「賽は投げられた!」と言いたくなってくる。